Q12:ゼミでなぜ論文を書くのですか?学生が論文を書くって何か意味ありますか?

A4:皆さんは自分の考えや意見を相手に理解してもらうために、どんなことをしますか?わかってくれそうな人にだけ話す、空気を読んでくれる人を探す、というのも一つの手です。また、どうせわかってくれそうにないから話さない、なんてこともあるかもしれません。ですが、それでは狭い世界に閉じこもってしまいます、それどころか場合によっては間違った考えを増幅させてしまうリスクもあります(実際、これは世の中ではしばしば起こっています)。
  自分とは異なる価値観、自分が知らなかった事柄にアクセスし、自分はどのようにそれを評価・判断し、自分と結びつけるかは、自分の価値観を広げるための大事な取組です。自分が何を考えているか、何を考えたいのか、どうしたいのか、それはなぜか、などをしっかりと相手に伝えること、相手の発言、文章から相手の意図、根拠、妥当性、自分の認識との距離を把握することも大変重要になります。
以上のことを実施するには、主体性(発言する、聞く、質問する、議論する)、論理性(主張の根拠・背景を理解する)、協調性(相互の理解を深めるよう姿勢、必要に応じて自分や相手の誤解・誤りを認め、正していく姿勢)などの能力・態度がキーとなります。相手のバックグラウンドの理解には、多様な情報へのアクセス方法への理解、行動も重要な要素になります。論文完成に至るプロセスは全て含んでいます。

  別の観点で言えば、自分がどこを歩いているのか、どこに向かっているのかを自分自身が理解するには、多くの情報と、他者との意見交換を通じての価値観の比較が重要になります。ただし、他者との意見交換には、自分自身の考え方をしっかりと構築していくことも大切です。単に知った情報を喋っているだけではAIと変わりません。大事なことは情報を、自身の「知識(知の体系)」「知恵(知の体系に基づく思考)」に変換するヒューマンインテリジェンス(HI)・方法の獲得ということです。このHIの構築のプロセスは、論文を書くという一連のプロセスと(少なくとも私の理解では)完全に一致しています。だからこそ、学生の皆さんには論文を書くという一連のプロセスの経験をして欲しいと思っています。

Q13:論文書くことの意味は一応分かったかなと思います。でも、価値観を広げるというのであれば、就活・インターンをしている方がいい気(効率的、実践的)がするんですが。

A5:(ちょっと長い説明になりますが・・・)皆さんの大きな心配の一つには自分の将来はどうなるのか、だと思います。いうなれば自分の「道」というところでしょうか。ちょっと話を変えて、皆さんにお尋ねします。明日どこかに行こうと思ったときに、何をどのようにして決めますか?元々行きたかったところに行く、それもあると思います。またいっそのこと行ったことのないところに行ってみよう、なんて考えるかも知れません。ですが、では明日だけの時間で世界一周旅行はできますか?海外旅行は行けますか?なかなか難しいはずです。それはそうでしょう。まず「時間」という条件があります。さらに「距離」、「費用」などの条件も重なります。場合によっては「情報」「ノウハウ」も関わってきますね。つまり皆さんは目的地を決定する前に、①自分を取り巻く様々な客観的条件、②自分の持つ知識・経験、③自分の意思、を脳内で自然に相互作用させながら、いくつかの選択肢を取り出し、比較分析し、自分がベターだと思う行動を決定しているわけです(ちなみにどこも行かずにNetflixを見る、ネットサーフィンをするというのもルーチンの繰り返しでない場合は判断といえます)。
  以上のことは自分の将来を考えるときにも同じことがいえます。自分の将来を考えるには、①自分を取り巻く様々な客観的条件、②自分の持つ知識・経験、③自分の意思、の往復作業を繰り返して、具体化するしかありません。それがインターンシップなどの就活ではないの?と言われれば、それも一つの手段です。ですが、インターンで得られる知識・経験はある会社、業界に関する知識・経験に留まります。①〜③のことでいえば、主に②の要素、業界の知識という点では①の要素もありますが、他人の知識・経験であるため、実はそれが正しいかどうかを検証するプロセスが必要になります(みなさんやっています?)(なお、選考の有利不利という話は別です)。
  もう一つ、皆さんにお尋ねします。皆さんの大学時代の目的は、就職を成功することですか?それとも自分にとって有意義な「社会人生活」(人生)を送る方法論を獲得することですか?就職することと、社会人生活を送ることの位置関係がごちゃごちゃになっていませんか?
 就活・インターンという「枠」に捉われないより広い範囲での「自分を取り巻く様々な客観的条件」の理解が重要ではないでしょうか。たとえば、自分がどういう時代に生きているか、世代としてどういう役割を期待されているか(また背負わされているか)、将来どのような課題があることが予測されているか、どんな産業がこれから発展すると期待されているか、同世代は何に悩んでいるかなどなど。あげればキリがありません。
 でもそんなこと、私の人生に何の関係もないのでは?と思うかも知れません。果たしてそうでしょうか?たとえば5年ほど前の日本の就職活動は3回生の後期試験終了から何となく開始され、3月くらいから焦りだし、4月から本格スタートという感じで、インターンなんてものは皆無に等しい状況でした。しかし、現在の皆さんは2回生くらいから行かないと行けないのではないか?下手したら1回生から行ったほうがいい、むしろ行かないと不利なんて話も聞いていると思います。ではこうした変化はなぜ起きたのでしょうか?誰がどのような期待を持って仕組みを変えたのでしょうか?それによって皆さんの大学生活は以前と比較してどのような影響が出ているでしょうか?これらのことを知るだけでも世の中の動きに対する理解は深まりますし、それに対して自分が主体的に判断・行動することができるようになります(単に合わせてインターンに行くのは、「やった気になっているだけ」かも知れません)。また、インターンという制度自体は日本以外で始まったことはカタカナ用語であることから想像できますが、では他国(例えばドイツ、アメリカ)と同じ?違う?などを知るだけでもその違いの背景を考えるという「新しい発想」(発想の仕方)を経験することができます。
 最後に、もう一つだけ聞くと、高校生のときに大学受験勉強をしていた過去の皆さんに対して、現在の皆さんは「何をアドバイス」しますか?おそらく大事なことは、「入ること」よりも「入った後に何するかだよ」とか、「何をしたいかをしっかり考えておくことが大事だよ」とか、「色々なチャンスが待っているから、今を大事にがんばれ」など、色々いうのではないかな(ちなみに、「前もって準備した方が・・・」はいつでも言いがちですが、曖昧なイメージだと、単に失敗(?)しないというネガティブな思考です。失敗しないは充実するとは限りません)。もちろん、未来は常に不確実なので、現在できること、できないことはありますが、やはり「未来」は「過去」と「現在」の延長を基本に考えるしかないはず。ね、すでに皆さんの過去の経験のなかで未来を見据えて行動することの重要性、自分の客観的自体を理解することの重要性は経験しているはず。だとすれば、いつ行動するの?・・・今(から)でしょ?

Q14:(説明が長いのは勘弁して欲しいのですが)、学生にとっての論文を書く意義は、ようは人間関係を広げるための基本的な力をつける、自分の客観的条件の理解を深めることとその手段の獲得すること、ということですね。一応、そういうことにしておきます。では具体的にどういったプロセスが論文にはあって、その中でどのような力が必要(身に付くこと)になるのでしょうか。

A6:(話が長くてすみません・・・)論文を完成させるプロセスを簡単に示せば、①テーマを見つける(何が世の中、自分にとって重要な論点なのか)、②テーマを深める(情報の収集、様々な議論の方法を通じて理解を深める)、③テーマをまとめる(多様な手段から集めた情報を知識として体系化する、知識に基づいて自らの見解を述べる)、になります。そこで身に付く力としては、計画力、実行力、論理的思考能力、コミュニケーション能力など、様々です。
以下リンクにて、「研究テーマを見つける」ということに関わって、論文ではどんな力が身につくのか、実践方法(の第一歩)を紹介しました。興味ある方はこちらをご覧ください。