中村ゼミの活動の「なぜ」に答えます

【ゼミの運用に関する質問:Q 1-3】
【論文に関する質問:Q 4-6】
【ゼミ生に関する質問:Q7-9】
【学習・研究の進め方に関する質問:Q10-13】
【そのほか:Q14-16】(2024/7/17追加)

Q1:ゼミ活動の基本的な考え方について教えてください。

A1:ゼミ活動の基本は、「ゼミ生自身によるゼミ運営」です。もちろん、最初から「はい、自由にやってー」だと何したら良いの?ということになりますので、最初に担当教員からゼミを通じて考えて欲しいこと、活動としてありうること、過去の先輩が実施してきた活動を紹介します。その上で、各年度のゼミ生が議論しながら、何のために、何をするのかを決めています。なお、3回生、4回生に共通するゼミの最終目標は「論文(3回生論文、卒業論文)を執筆する」ということです。

Q2:ゼミの時間帯では何をしていますか?

A2:例年のゼミでは、という限定になりますが、ゼミの時間では「文献報告・研究報告、ゼミ諸活動に関する方針議論、話題提供(ゼミニュース、就活ニュースなど)」を行っています。文献報告・研究報告では対象文献の報告・議論、各研究班の報告・議論をしています。話題提供では、文献や研究内容に捉われない話題をゼミ生が提供するということをしています。これはプレゼンの練習、知見の拡張、相互理解の促進、という観点で実施してきました。ですので、基本的にはゼミで学習・研究活動をするというよりは、ゼミ外の時間で準備・活動し、ゼミの時間で進捗の相互確認、意見交換というイメージで考えてください。

Q3:ゼミでの役割などは何がありますか?

A3:こちらも例年のゼミでは、といいたいところですが、ゼミ長、副ゼミ長、会計は確定していますが、それ以外の役割は毎年議論しながら決めています。なおゼミ長、副ゼミ長、会計の決め方も例年で違います(希望、自薦・他薦、選挙など。ある年はゼミ長の確定まで、1日駅長ならぬ「今週ゼミ長」というやり方をしたこともあります)。その他の役割としては、たとえばアカデミア(話題提供担当。ゼミニュースをゼミ生全員でやるということになり7期生ゼミは廃止)、インゼミ担当(4期生〜)、合宿担当、FW担当、イベント担当(ある年とない年)、おすすめ担当(7期生で創設)。基本的にはゼミに所属している人は何かしらゼミ活動の責任的役割がある、と思っていただいた方が良いです。時に責任者、時にフォロワー、時にカウンターパート、そんな関係が大事かと思っています。

Q4:ゼミでなぜ論文を書くのですか?学生が論文を書くって何か意味ありますか?

A4:皆さんは自分の考えや意見を相手に理解してもらうために、どんなことをしますか?わかってくれそうな人にだけ話す、空気を読んでくれる人を探す、というのも一つの手です。また、どうせわかってくれそうにないから話さない、なんてこともあるかもしれません。ですが、それでは狭い世界に閉じこもってしまいます、それどころか場合によっては間違った考えを増幅させてしまうリスクもあります(実際、これは世の中ではしばしば起こっています)。
  自分とは異なる価値観、自分が知らなかった事柄にアクセスし、自分はどのようにそれを評価・判断し、自分と結びつけるかは、自分の価値観を広げるための大事な取組です。自分が何を考えているか、何を考えたいのか、どうしたいのか、それはなぜか、などをしっかりと相手に伝えること、相手の発言、文章から相手の意図、根拠、妥当性、自分の認識との距離を把握することも大変重要になります。
以上のことを実施するには、主体性(発言する、聞く、質問する、議論する)、論理性(主張の根拠・背景を理解する)、協調性(相互の理解を深めるよう姿勢、必要に応じて自分や相手の誤解・誤りを認め、正していく姿勢)などの能力・態度がキーとなります。相手のバックグラウンドの理解には、多様な情報へのアクセス方法への理解、行動も重要な要素になります。論文完成に至るプロセスは全て含んでいます。

  別の観点で言えば、自分がどこを歩いているのか、どこに向かっているのかを自分自身が理解するには、多くの情報と、他者との意見交換を通じての価値観の比較が重要になります。ただし、他者との意見交換には、自分自身の考え方をしっかりと構築していくことも大切です。単に知った情報を喋っているだけではAIと変わりません。大事なことは情報を、自身の「知識(知の体系)」「知恵(知の体系に基づく思考)」に変換するヒューマンインテリジェンス(HI)・方法の獲得ということです。このHIの構築のプロセスは、論文を書くという一連のプロセスと(少なくとも私の理解では)完全に一致しています。だからこそ、学生の皆さんには論文を書くという一連のプロセスの経験をして欲しいと思っています。

Q5:論文書くことの意味は一応分かったかなと思います。でも、価値観を広げるというのであれば、就活・インターンをしている方がいい気(効率的、実践的)がするんですが。

A5:(ちょっと長い説明になりますが・・・)皆さんの大きな心配の一つには自分の将来はどうなるのか、だと思います。いうなれば自分の「道」というところでしょうか。ちょっと話を変えて、皆さんにお尋ねします。明日どこかに行こうと思ったときに、何をどのようにして決めますか?元々行きたかったところに行く、それもあると思います。またいっそのこと行ったことのないところに行ってみよう、なんて考えるかも知れません。ですが、では明日だけの時間で世界一周旅行はできますか?海外旅行は行けますか?なかなか難しいはずです。それはそうでしょう。まず「時間」という条件があります。さらに「距離」、「費用」などの条件も重なります。場合によっては「情報」「ノウハウ」も関わってきますね。つまり皆さんは目的地を決定する前に、①自分を取り巻く様々な客観的条件、②自分の持つ知識・経験、③自分の意思、を脳内で自然に相互作用させながら、いくつかの選択肢を取り出し、比較分析し、自分がベターだと思う行動を決定しているわけです(ちなみにどこも行かずにNetflixを見る、ネットサーフィンをするというのもルーチンの繰り返しでない場合は判断といえます)。
  以上のことは自分の将来を考えるときにも同じことがいえます。自分の将来を考えるには、①自分を取り巻く様々な客観的条件、②自分の持つ知識・経験、③自分の意思、の往復作業を繰り返して、具体化するしかありません。それがインターンシップなどの就活ではないの?と言われれば、それも一つの手段です。ですが、インターンで得られる知識・経験はある会社、業界に関する知識・経験に留まります。①〜③のことでいえば、主に②の要素、業界の知識という点では①の要素もありますが、他人の知識・経験であるため、実はそれが正しいかどうかを検証するプロセスが必要になります(みなさんやっています?)(なお、選考の有利不利という話は別です)。
  もう一つ、皆さんにお尋ねします。皆さんの大学時代の目的は、就職を成功することですか?それとも自分にとって有意義な「社会人生活」(人生)を送る方法論を獲得することですか?就職することと、社会人生活を送ることの位置関係がごちゃごちゃになっていませんか?
 就活・インターンという「枠」に捉われないより広い範囲での「自分を取り巻く様々な客観的条件」の理解が重要ではないでしょうか。たとえば、自分がどういう時代に生きているか、世代としてどういう役割を期待されているか(また背負わされているか)、将来どのような課題があることが予測されているか、どんな産業がこれから発展すると期待されているか、同世代は何に悩んでいるかなどなど。あげればキリがありません。
 でもそんなこと、私の人生に何の関係もないのでは?と思うかも知れません。果たしてそうでしょうか?たとえば5年ほど前の日本の就職活動は3回生の後期試験終了から何となく開始され、3月くらいから焦りだし、4月から本格スタートという感じで、インターンなんてものは皆無に等しい状況でした。しかし、現在の皆さんは2回生くらいから行かないと行けないのではないか?下手したら1回生から行ったほうがいい、むしろ行かないと不利なんて話も聞いていると思います。ではこうした変化はなぜ起きたのでしょうか?誰がどのような期待を持って仕組みを変えたのでしょうか?それによって皆さんの大学生活は以前と比較してどのような影響が出ているでしょうか?これらのことを知るだけでも世の中の動きに対する理解は深まりますし、それに対して自分が主体的に判断・行動することができるようになります(単に合わせてインターンに行くのは、「やった気になっているだけ」かも知れません)。また、インターンという制度自体は日本以外で始まったことはカタカナ用語であることから想像できますが、では他国(例えばドイツ、アメリカ)と同じ?違う?などを知るだけでもその違いの背景を考えるという「新しい発想」(発想の仕方)を経験することができます。
 最後に、もう一つだけ聞くと、高校生のときに大学受験勉強をしていた過去の皆さんに対して、現在の皆さんは「何をアドバイス」しますか?おそらく大事なことは、「入ること」よりも「入った後に何するかだよ」とか、「何をしたいかをしっかり考えておくことが大事だよ」とか、「色々なチャンスが待っているから、今を大事にがんばれ」など、色々いうのではないかな(ちなみに、「前もって準備した方が・・・」はいつでも言いがちですが、曖昧なイメージだと、単に失敗(?)しないというネガティブな思考です。失敗しないは充実するとは限りません)。もちろん、未来は常に不確実なので、現在できること、できないことはありますが、やはり「未来」は「過去」と「現在」の延長を基本に考えるしかないはず。ね、すでに皆さんの過去の経験のなかで未来を見据えて行動することの重要性、自分の客観的自体を理解することの重要性は経験しているはず。だとすれば、いつ行動するの?・・・今(から)でしょ?

Q6:(説明が長いのは勘弁して欲しいのですが)、学生にとっての論文を書く意義は、ようは人間関係を広げるための基本的な力をつける、自分の客観的条件の理解を深めることとその手段の獲得すること、ということですね。一応、そういうことにしておきます。では具体的にどういったプロセスが論文にはあって、その中でどのような力が必要(身に付くこと)になるのでしょうか。

A6:(話が長くてすみません・・・)論文を完成させるプロセスを簡単に示せば、①テーマを見つける(何が世の中、自分にとって重要な論点なのか)、②テーマを深める(情報の収集、様々な議論の方法を通じて理解を深める)、③テーマをまとめる(多様な手段から集めた情報を知識として体系化する、知識に基づいて自らの見解を述べる)、になります。そこで身に付く力としては、計画力、実行力、論理的思考能力、コミュニケーション能力など、様々です。
以下リンクにて、「研究テーマを見つける」ということに関わって、論文ではどんな力が身につくのか、実践方法(の第一歩)を紹介しました。興味ある方はこちらをご覧ください。

Q7:ゼミの活動は大変ですか?

A7:ゼミ生からの意見では、「しんどいけど慣れた」とか「まあ色々やるには必要なことはあるよね」という感じの感想を聞いています。事前・事後の準備もありますので、確かに大変だとは思いますが・・・それはゼミ生がゼミに対してどのような「価値」を置くかによるかと思います。単位取得効率性という観点だけで評価すれば、かなり効率の悪い授業であることだけは間違いありません。

Q8:FW、合宿など、学外での活動は多いですか?

A8:学外での活動については比較的多い気がしています。なお、各種活動をゼミ生として位置付けてとするか、有志とするかは毎回ゼミで議論して決めています。ただ、ゼミ生が取り上げるテーマ次第ではありますが、生産活動のあり方を基礎としていますので、どうしても実際の「ものの作り方」や「もの」に対する理解を深める関係上、見る、聞く、体験する、という機会は増やさざるを得ないと思っています。

Q9:ゼミ生になる要件などはあるのでしょうか?

A9:語学力(IELTS5.5以上、外国語2言語以上)、論文執筆経験、プレゼン大会発表経験、海外留学経験、GPA4.0以上・・・全部嘘です(というかそれだと私もゼミから排除されちゃいます)。ゼミ生に求めていることは、「知りたい」「考えたい」「深めたい」という意欲、意欲に基づいて行動するぞという意思、他者・著者など(の考え、行動)を大事にするというハートと姿勢。それさえあれば(続けば)、あとは行動するだけ。何をするか、どうするかはその後です。

Q10:学習・研究の進め方で良い方法などはありますか?

A10:これは正直回答が難しいです。誰にでも当てはまる標準的な方法というのはあるのかもしれませんが。ただ、最近気づいたのですが、英語は言語運用能力を高める上で「読む」「書く」「聞く」「話す」を繰り返すことが重要といっていますね。また、私は教育分野では齋藤孝先生、英語では大西泰斗先生の方法が大変良いと思っています。言語のイメージを持つ、ボキャブラリーを増やす、かっこいいフレーズは覚える、真似て喋る、など、様々に共通しているワードがあるな、と思っています。日本語を話す能力を高めるには、聞く、読む、書く、という3つの能力も同時に鍛えていくことが大事になります。知っている話題・内容、真似したい用語・フレーズをたくさん身につけて、それを普段の自分の生活の中で使っていく(使いこなしていく)ことが自分の知的能力を高める近道ということでしょうか。それにはインプット(読む、聞く)とアウトプット(書く、話す)を繰り返すしかないのでしょうね。ただし、近道といっても毎日成長するという類のものではありません。やはり継続することで初めて力になります(筋トレと同じ)。
以下、おすすめの方法を示しますね。ただし、お願いしたいことはやり始めたら、最低でも3ヶ月はしてください。でないと効果は出てきません。

  1)毎日、できるだけ決まった時間に決まったことをする(時間は30分、1時間など少しまとまった時間を取る)。
   これは新聞をぼおっと眺める、本・論文(社会的な話題に関するものに限定など、自分なりに縛りをかける)を読む、ドキュメンタリー番組や映画を見る。
  →筋トレと同じで、学習を繰り返して体幹にしていくことが大事。なお実施場所は自由(通学、朝起きてから、お風呂場でなど)。ただしルールとして、スマホの電源は切るか気にならない場所に置く(ついつい手に取ってしまう)、掃除はしない・・・これらは大敵。
2)その日やったこと、考えたことをメモする
  →今日の発見、アイデアを書き留める、程度で良いです。

もちろん、決まった時間以外にさらに色々するのは自由。だけど、絶対に破らない「自分ルール」を作ってください。

それと学習の仕方自体を学習するということもあります。
例えばこんな本
①宮内泰介・上田昌文(2020)『実践 自分で調べる技術』岩波新書。
②加藤周一(2000)『読書術』岩波現代文庫。
③澤田明夫(1977)『論文の書き方』講談社学術文庫。
④斎藤孝(2005)『三色ボールペンで読む日本語』角川文庫。

*世の中には勉強の仕方、調べ方などの本はいろいろあります。自分に適したやり方が見つかるまではまずは真似をしてみる。最初から自己流(とりあえずネットで調べて終わり)は泳ぎ方を習わずにプールや海に行って泳ぐようなもの。効率よく技を習得するには、達人から教わる(漫画でもよくある修行のシーン)。それと同じことを皆さんもやっては?(気分は炭治郎・善逸・伊之助?)

Q11:学習・研究を継続する自信がありません。

  「継続」が日常になる(その活動がご飯を食べる、歯磨きをするレベルになる)までには時間がかかります。それと「継続」を目的とすると結果的に続きません。やはり小さなものでも良いので、目標を持つこと、目標を達成すること(達成感を得る)を繰り返すことが大事なんだと思います。例えば、「筋肉をつけるぞ」は目的ではありませんね。何かをするために筋肉をつけるなんです(以前に息子と見た「妖怪ウォッチ」では主人公はヒロインの子にモテるために筋肉をつけていました・・・勘違いですぐに辞めていましたが)。であれば学習・研究は何のためにするか。その小さな目標(最低でも3ヶ月続く目標)を設定したら良いのだと思います。3ヶ月後自分はどうなっていたいか、4ヶ月後にある大きなイベント(例えばプレゼン大会、インターン研修、論文大会など)に向けて自分はどんなコンディションでいたいか、など何かしら具体的なイメージを描くことが大事なのだと思います(たとえば、『鬼滅の刃』の竈門炭治郎は、禰津子を人間に戻すという大きな目標を掲げていますが、都度都度で目標を発見・設定していますね(呼吸法の体得、火の呼吸に耐える体力づくり、柱の修行のクリアーなど)。そして、その成果を鬼との戦いで発揮し、さらに課題を発見し、目標を設定するを繰り返しています)。大きな目標を原動力に、その達成のために小さな目標の設定と達成を繰り返す。良い事例だと思います。
ちなみにこの関連で面白い本がありました。

伊藤亜沙(2022)『体はゆく できるを科学する』文藝春秋。

Q12:自分に関心のある文献・論文等の検索方法を教えてください。

A12:色々な方法がありますが、まずは各種図書館で調べ方を紹介しているサイトを見ることをお勧めします。
 
 リサーチナビ(国立国会図書館):https://rnavi.ndl.go.jp/research_guide/entry/guide.php
 コンテンツを調べる(立命館大学図書館):http://www.ritsumei.ac.jp/acd/cg/lt/jl/jci/page2.htm

 ただし、検索で大事なことは、ヒットする「言語」(ワードバンク)を増やすことです。 例えば、現在のプラスチック問題について理解を深めたい、といった場合、「プラスチック」と検索すると、関係のないものまで膨大なものが出てきてしまいます。他方で「プラスチック」「問題」と入れても、何の問題を取り扱っているかわからないものまで出てきます。これは生成系AIを使っても似たような問題が生じます。最初からネット検索でいくとこんな感じになります。なので、おすすめの方法としては3つです。

1)大きな本屋に行って、自分のキーワードに関連する棚を見て、どんなワードが自分の関心のあるテーマには 使われているかを調べる
2)実際に本を一つ買って、使われている重要ワードをメモする。
 →できれば新書の方が良いです(お値段が安め)。

 新書マップ:https://shinshomap.info/

3)AMAZONのレビュー機能も活用する。
 何回か自分の気になるワードを入れ続けて検索すると、AMAZONのAIが分析して、「この人の関心に近い人はこんな本を買っていることが多い」ということでおすすめ本を勝手に紹介してくれます。もちろんハズレもありますが、意外に当たる時もあります(リアル本屋とは違う活用法)。

こういうことを繰り返していくと、自分の関心のある分野で使われている「言語」が増えて検索の精度が上がります(重要な人物名、組織・企業名、よく使われている専門用語、情報が集まっているURLや雑誌など。例えばですが、プラスチックの場合、ケミカルリサイクル、メカニカルリサイクル、資源自立経済戦略、サーキュラー・エコノミー、PPWR、INC、デポジット、エレン・マッカーサー財団などの言葉が関わります)。いきなりネット検索はうまくいけば良いですが、インターネットは情報の海、情報のゴミ屋敷、最近は意図的に整理された情報の束(思考の偏りを助長する可能性)。自分のスタイルは複数のソースから身につけることが大事ですね。

Q13:生成系AIについてゼミではどのように活用しますか?(2024/4/3追加、2024/7/17加筆)

A13:技術系のゼミだから生成系AIは即奨励します、と考える方もいらっしゃると思いますが、私は違う立場です。生成系AIが知的活動を支える新たな手段として期待できるものだとは考えていますし、実際私も調査等をする際には活用しています(とりあえず知りたいことの最初の段階での情報の確保、明確な目的がある中での情報の探索にはある程度有効かと思います)。ただ「道具を活用すること」と、「道具に振り回されること」とは違うとも考えています。
 おそらく一般的な生活を送る上では生成系AIは電子レンジ、全自動洗濯機のように「時間を効率的に活用することが可能な便利な道具」(ドラえもん?)ということで良いのかとは思います(ただ従来の検索よりも50倍以上も電力消費量が多いとされる生成系AIを使う必要が生活シーンのどこにあるのかは疑問ですが・・・)。
 他方で、繰り返しになりますが、大学での学びで大事なことは、①「知的なアンテナ」の感度(別の言い方をすれば知的なセンス)を高めること、②論理的な思考、論理的な説明に必要な手立ての理解と実践、これらに基づく論理的な説明能力を身につけること、③単に情報を頭に入れるのではなく、その情報の文化・歴史等のバックグラウンドを自身の知的基盤に取り込むこと、④以上を通じて、自分の得た知見を実際に自在に運用すること(この場合は自分の新しい展開に活用できること)、です。その点で、いつまで経っても生成AIに質問を投げかけて、その答え通りに行動しているだけでは、「その人であることで生まれる独自性」は発揮されません(これが「道具に振り回されている状態」)。また生成系AIを活用するにしても、ポイントとなるのは「何を調べさせるのか」「何をどのように聞くと、有益な結果が得られるのか」「生成系AIの回答の真偽をチェックできるか」というセンスが重要になります。でそのセンスはどのように鍛えるのか。こうなると生成系AI自体の学習もそうですが、生成系AIという手段を活用する側である皆さんの能力形成が重要になってきます。結局は普段から知的関心を広げる癖と体づくり。そのためのヒントはQ11、Q12に記載したので、ご覧ください。

Q14:ゼミの期間中に留学などの取り組みはしても良いでしょうか。(2024/7/17追加)

大いに実施してください。若い皆さんが色々な世界を経験することは良いことです。1期生の頃から中村ゼミでは留学は奨励とまではいきませんが、いきたい人は積極的に応援しています。これまでに大学のプログラムで行った人もいますし、休学して留学したゼミ生もいます(3回生ゼミのスタート段階で1年留学したゼミ生もいます、3回生終わる段階で休学留学したゼミ生もいます。こうしたケースではゼミの学年が変わります)。私も2024年度に半年ほどドイツに滞在しましたが、様々な発見と今までの自分の見つめ直しに大いに役立っています。

Q15:留学生でも参加できますか?(2024/7/17追加)

大歓迎です。日本人はどうしても日本人同士がいることが「当たり前化」しすぎていて、そのことが世界的にはレアケースであることを忘れがちです。ですのでその日本人のコミュニティの雰囲気というものが、留学生の皆さんがゼミに入る際の壁になっていることは理解しているつもりです。教員としては可能な限りのサポートはするつもりでいます。ただ残念ながら、日本人が多数派のため、皆さん自身がなんらかの形で努力する必要はあります。それが日本人のコミュニティに馴染む形なのか、そうしたコミュニティとは違う中村ゼミのコミュニティとなるかは参加するゼミ生次第です。いずれにせよ、やってみなければわからない、そうした新しい可能性を楽しみたい、ということであれば是非ゼミに応募してください。

Q16:就職に有利なゼミですか?(2024/7/17追加)

これについては正直お答えしようがありません。というのも、①卒業したゼミ生がどういった企業や進路を選択しているかということ、そのゼミ生が充実した社会人生活を送っていること、は企業ブランドとは全く関係がない、②就職に有利とはどういう状態か、またその状態とゼミ活動がどのように関係しているのか説明が困難、③先輩たちがそうだったことと、ゼミを志望する本人がどうなるかということも偶然にしかすぎない、などがあるからです。ただ「就職」(私は「進路」という表現の方が正しいと思っています)という目の前にある現実のプレッシャーもあり、少しでも将来との関係で価値ある選択をしたいという気持ちも十分に理解できます。ただあえて聞きますが、「あなたにとって価値ある選択って何?何を基準にしているの?」「あなたはどんな将来を過ごしたいの?」「そのために2年後にどういう自分になっていたいの?」ということ。加えて「それらが中村ゼミの選択とどう関係しているの?」ということ。これらは結構難しい論点ですので、すぐに明確な答えは出せなくても良いです。そうしたことを考えることに少しでも価値を感じる方、考え続けるのも悪くはないなー、と感じる方は中村ゼミとの相性は良いと思います。